コラム
保護者からのクレームはチャンス?正しいクレーム対処の方法と心構えとは?
保育士の仕事で最も神経をすり減らすのが「保護者からのクレーム」です。
日常から良好な人間関係を築けていれば大きな悩みにはなりませんが、保育園に子供を預ける保護者は共働きで忙しいことが多いため、コミュニケーションも取れず関係性を築いていくことは非常に難しいです。
保護者の中には理不尽で自己中心的な要求をしてくる「モンスターペアレント」と呼ばれる方もいらっしゃいます。こういった方からのクレームはどのように対処するのがベストなのでしょうか?
今回の記事ではモンスターペアレントが急増する背景や、クレームの上手な対処法と心構えをまとめてみました。記事の最後には溜まったストレスの解消法も合わせてご紹介しているので、ぜひ最後までご覧いただければと思います。
急増するモンスターペアレント
ここでは急増するモンスターペアレントとはどんな存在なのか?
急増する背景や特徴などをみていきましょう。
モンスターペアレントって?
モンスターペアレントとは、保育園や幼稚園(小学校以降の学校も含む)などに対して自己中心的で理不尽なクレームをしてくる保護者のことを指します。
日本でモンスターペアレントは略称で”モンペ”と呼ばれることが多いです。
消費者優先の日本では、近年ますます増えているモンペですが、最近では非常識なクレームの矛先は、業務を行っている保育士にではなく、運営を行っている保育園自体に向くことも多いようです。それは労働者である保育士にではなく、より権限を持っている運営元にクレームを入れた方が、話が通りやすいからです。
保育士側としては、こういった保護者からのクレーム対応は難しく時間がかかりますし、何よりも神経をすり減らしてしまいます。他の園児や保護者にも悪影響を与えてしまうため、モンスターペアレントは保育園にとって非常に厄介な存在になっています。
モンスターペアレントが増えた背景
モンスターペアレントは、2000年代頃から特に多く報じられるようになりました。
モンスターペアレントが増えた背景には2つの原因が考えられます。
① SNSの情報で悪いクチコミが目立ちやすくなった。
② 親として相談できる方が周りにいなく不安だから。
一つずつ解説をしていきます。
SNSの情報で悪いクチコミが目立ちやすくなった。
一つ目の原因は、SNSなどでの情報の拡散が盛んに行われるようになったことにあります。
今はネット社会により携帯一つで情報を収集できるようになりました。さらには、どんな人でも簡単にSNSでアカウントを作れるため、誰でも情報を発信することが出来ます。SNSにはさまざまな情報が飛び交います。そこにはもちろん、「〇〇の保育園は素晴らしい!」といったポジティブな情報もあります。
ですが、実際には保育園の不祥事や、歪曲した保育情報が発信される機会の方が多いのです。確かな信憑性があるわけではない情報だとしても、その情報をキャッチした保護者は我が子に関わることなので不安になり、クレームを入れてしまうのです。保護者の中には保育士をサービス業だと捉えている方が多く、過剰な「消費者意識」を持たれている保護者の方も、非常に多くいらっしゃいます。
親として相談できる方が周りにいなく不安だから。
二つ目は、核家族化が進んでいく中で人間関係が希薄になり、悩みを相談できる相手が少なくなったためです。
ひと昔前の時代はまさに「村社会」「村コミュニティ」でした。必ずといっていいほど子育ての先輩が周りにはいてくれたので、簡単に相談することが出来ましたし、わからなければ誰かが助けてくれました。現代はそういったコミュニティは少なく、保護者は自分で育児を学んでいかなければいけません。人間にとって最大のストレスは「わからないこと」です。そういった日常でのストレスの矛先が保育士に向いてしまい、クレームが増加しているのです。
クレームの背景や原因は、保護者を取り巻く環境やネット情報に理由があります。保護者の人格にも理由はありますが、1人で悩む保護者ほどクレームを入れてしまうものなのです。
モンスターペアレントの言動
モンスターペアレントの言動には、相手を批判したり不快にさせるネガティブなものが多いです。例えばこんなことを言ってくる人たちがいます。
・「子供が美味しくないと給食を食べないから、給食費は払わない」と給食費を滞納
・大きなイベントごとで自分の子供が主役に選ばれないと「なぜうちの子が主役じゃないのか?」とクレームを入れてくる
・「帰宅後は忙しいから」と洗濯物を保育士がして欲しいと要求される
・外遊び中に怪我をさせたくないという理由で、外遊びに連れて行くことを頑なに断る
・「うちの子が絵を描く、工作が下手くそなのは保育士の教育がなっていないせいだ」とクレームを入れてくる
・「トイレトレーニングを家では出来ないので、保育園でやってくれ」と言う割には、着替えもオムツも全く持参してこない
・年度途中に「担任との相性が悪いから」と担任替えを要求してくる
「あの人は、出会った最初からモンスターペアレントだった!」と言う事例は、意外にも少ないです。ですが、モンスターペアレントになる人には次のような特徴があります。
・周りのことは考えず、自分のことしか考えない
・立場が弱い人に対してあたりが強い
・感情の起伏が激しい
・話し合いが論理的ではなく感情論になりがち
・相手の小さなミスを忘れずに揚げ足を取る
モンスターペアレントはその人を取り巻く環境が作り出します。
ここからはそんなモンスターペアレントからのクレームを、どのように対処していけば良いのかを見ていきましょう。
クレームの対処法や心構
理不尽で自己中心的な要求・クレームをつけてくる保護者から逃げてしまうのは簡単なことです。ですが、それでは保育士として働いていくことはできませんし、何よりも自分の成長につながっていきません。
ここでは、保護者とより良い信頼関係を築いていくためのクレームの対処法や心構えを紹介していきます。
クレームを入れる保護者の心理
クレームを入れる保護者の心理には以下のような共通点があります。
・家族関係の中で自分が言いたいことを言えていない・我慢している
・自分の意見を誰かに受け止めて欲しいという承認欲求がある
・自分の子供にいい思いをしてもらいたい
まとめるとクレームを入れる保護者は「自分の怒りを受け止めてもらいたい・認めてもらいたい」という気持ちが一番強くあります。
保育園に子供を預けている保護者は共働きのことが多いです。日常から忙しい時間を過ごしているため、自分の暇を潰すためにクレームを入れることは非常に少ないです。例え日常から保育園側に気になることがあったとしても多少は我慢します。それでも、忙しい時間を割いてまでクレームを入れるということは「よっぽどの場合」だということです。
そのため保護者からクレームが入った場合、まずは反論せずに意見を受け止めることを第一に考えましょう。ほとんどの場合、最初に言ったクレームだけが言いたいことではありません。表面上の言葉だけを受け取り、解消しようとしたとしても根本的な解決にはつながりません。
もちろん、あまりにも自己中心的な理不尽な要求にまで答える必要はありません。
ですが最初から「この人の言っていることは理不尽だ!」と決めつけていては、良好な人間関係を築いていくことはできません。
相手の話を真摯に聞く、真正面から受け止める姿勢を忘れないようにしましょう。
NGな保護者対応例
クレームを入れる保護者の心理を踏まえると、理想的な保護者対応が見えてきます。
では反対に、絶対にやってはいけないNGな保護者対応とはどのようなものなのでしょうか?
保護者の意見を否定してしまう
保護者の理不尽な要求に対して苛立ちを覚えてしまうことがあると思います。
保育士も人間ですからそれは仕方のないことです。ですが、保護者のクレームに対して「いや」「でも」「ありえない」「それは絶対に違います」など、否定的な意見をぶつけてしまっては逆上させてしまう可能性があります。
クレームの根本には「意見を受け止めて欲しい」「認めてもらいたい」という気持ちがあります。その気持ちに反する対処は全てNGな保護者対応になります。
感情的になり早口で対応してしまう
クレーム対応は相手の話を否定せずに、冷静に最後まで話を聞くことが重要です。
相手の意見を聞いている最中に、自分を否定されている気持ちになると、早口になり「自分の考えを相手に認めさせたい」と思ってしまうのが人間という生き物です。
ですが、感情的になり早口で対応してしまうと、相手も吊られて早口になり冷静な議論が出来なくなってしまいます。まずは保育士側が落ち着いて対応することで、相手も落ち着きを取り戻してくれます。相手の話を最後まで聞き、ゆっくりと話すことを心がけましょう。
特定の保護者だけの味方になってしまう
一番のNGはこれです。理由は、特定の保護者だけの味方になってしまうと「なんであの人だけ」と火種が大きくなってしまうからです。
対応に慣れていない保育士は、すぐに謝罪をしてしまい特定の保護者の味方をしてしまいがちです。心理的にも「その場の問題から逃げ出したい」気持ちになってしまうのは仕方のないことです。
ですが一番大切なことは「その場から逃げ出すこと」ではなく「問題を解決すること」です。クレーム対応は保護者と良好な関係を築くきっかけにもなります。臭いものに蓋をする対応ではNG対応になります。
良好な関係を築けるクレームの対処法や心構え
ここまではNGな保護者対応のポイントを見てきました。
ここからは良好な関係を築けるクレームの対処法や心構えを紹介していきたいと思います。
最初の心構えが一番大切
誰でもクレームを受けることは嫌なものです。ですが、その気持ちや態度が相手に伝わってしまっては、さらに火種を大きくすることに繋がってしまうかもしれません。
そのため、クレーム対処をするためには「クレームの捉え方」から見直す必要があります。
皆さんはハインリッヒの法則「1:29:300」をご存知でしょうか?
これはアメリカの技師であるハインリッヒさんが、労働災害の事例の統計を分析した際に導き出された法則です。簡単に説明するのであれば、1人のお客様のクレームの後ろには、実際に入ってこないが同じくらいの不満を持っている人たちが29人いて、さらにその後ろには不満まではいかないが不快に感じた人達が300人にいる、と考えるべきだという法則です。
そう考えてみると目の前の保護者は「クレームを言って来た人」ではなく、「クレームを言ってくれた人」なのです。こうして相手に対しての感謝やリスペクトを抱きながら対応することが、クレーム対応をする際の心構えとしては非常に重要になります。
具体的な対処法として効果的な方法は以下の4つです。
・丁寧な相槌とタイミングを気をつける
・反論せずに意見を受け止める
・クッション言葉を使い、良い印象を持ってもらう
・クレームに対しての感謝を忘れずに
丁寧な相槌とタイミングを気をつける
話を聞く時に重要なのは、「この保育士は話を聞いてくれている」と保護者に思ってもらうことです。そのために丁寧な相槌とタイミングを気をつけましょう。
話の合間に「はい」「そうですね」、意見をもらった時には「おっしゃる通りです」などの丁寧な相槌を話が終わったタイミングごとに入れることで、良い印象を持ってもらうことができます。
言葉を遮ったり、「はいはい」などの雑な相槌は相手の気分を害してしまう危険があります。一つ一つ頭を使いながら対応するようにしましょう。
反論せずに意見を受け止める
クレーム対応は「聞き役に徹する」ことが鉄則です。
前述の通り、感情的になって相手を否定したり早口言葉になってしまってはいけません。
反論せずに受け止めると言っても、保護者のいいなりになりサンドバックになる必要はありません。事実を受け止め、共感的態度で話を聞くことがポイントです。
まずは冷静な議論ができるようになるために、相手に落ち着いてもらうことを優先的に考え意見を受け止めていきましょう。
クッション言葉を使い、良い印象を持ってもらう
相手にお願いをしたり、異論を唱えたり、お断りをする際には言葉を柔らかく伝えるために「クッション言葉」を使うのが非常に効果的です。
クッション言葉の事例は以下の通りです。
相手にお願い・依頼する
「恐縮ですが・・・」
「ご面倒をおかけしますが・・・」
「こちらの都合で恐れ入りますが・・・」
「お手数をおかけいたしますが・・・」
相手に尋ねる
「お尋ねしたいのですが・・・」
「失礼ですが・・・」
「差し支えなければ・・・」
「お教えいただきたいのですが・・・」
お断りする
「あいにく」
「余計なこととは存じますが・・・」
「申し訳ございませんが・・・」
「残念ですが・・・」
「大変申し上げにくいのですが・・・」
クッション言葉からスタートすることで自然に相手を尊重する柔らかな口調になり、言い出しやすくなる効果も期待できます。保護者への配慮を忘れずに真摯に対応しましょう。
クレームに対しての感謝を忘れずに
クレームは相手との良好な関係を築く上でのきっかけになることがあります。
クレームという名の「貴重な意見」がもらえなければ改善することはありません。
わざわざ時間を割いて意見を言ってくれた保護者に感謝を忘れずに、最後まで丁寧に対応しましょう。
おすすめの5つのストレス解消法
クレーム対応によって抱えたストレスをそのままにしておくことは、絶対におすすめしません。
保育士になる人は、個人差はあれど、真面目で責任感の強い人が多いと言われます。
どちらも素晴らしい資質ですが、このような人ほど多大なストレスがかかった場合に「うつ病」になってしまう傾向にあります。
「うつ病」とは、ストレスが積み重なるなどの要因で、脳の機能障害が起きることです。
脳の機能が全体的に低下することで判断力が鈍ったり、急に悲観的になったりしてしまいます。
最悪の場合、うつ病を発症し保育士などその職を続けられなくなることもあります。
そのため、保育士の労働環境や保育士不足が問題となっている今、保育士のメンタルケアは重要な課題と言えます。
この記事では最後に、そんなうつ病の原因ともなるストレスの解消法を紹介したいと思います。無くすことのできないストレスと、どのように付き合い解消していけばいいのか?
以下の5つの方法をご紹介します。
・誰かに相談する
・十分な睡眠と休息をとる
・趣味で気分転換をする
・運動をする
・転職も視野に入れる
一つずつ見ていきましょう。
誰かに相談する
ストレスを感じた際に最も重要なのは、1人で抱え込まず誰かに相談することです。
厚生労働省が平成28年に実施した「労働安全衛生調査」によると、悩みを誰かに相談することで、9割以上の方が解消、または気持ちが楽になったと回答しています。
家族、恋人、友人、相談する相手は誰でも構いません。信頼できる人に今感じている不安や悩みを率直に伝えてみましょう。
誰かに聞いてもらうことで気持ちが軽くなったり、解決策が見つかることがあります。
他人の客観的な意見をもらい、しっかりと事実を受け止めて「対話」することで心の状態もきっと良い方向に向かうはずです。
身近な人に相談しづらい場合は、公的機関の相談窓口やカウンセリングを受けることも視野に入れてみましょう。
十分な睡眠と休息をとる
仕事が忙しいと睡眠時間が確保できなくなり、精神的なバランスが不安定になってしまいます。日常でこのような症状がある方は睡眠が足りていないかもしれません。
・なんとなく疲れやすい
・暴飲暴食してしまう
・些細なことでイライラする
・集中力が続かない
・注意が散漫になる
これらは睡眠不足から来る初期症状として代表的なものです。
眠気を感じていなくても、身体に必要な睡眠時間や質が足りていない可能性があります。
これらが続くと生活習慣病になってしまったり、最悪の場合はうつ病を発症してしまうこともあります。
睡眠は疲労回復、ストレス解消以外にも、肥満防止や肌質の改善、記憶の定着を高める効果があります。
良い仕事は良い睡眠から、睡眠時間は確実に確保するようにしましょう。
趣味で気分転換をする
休日に何もすることがなければ、日常のネガティブなことばかりを考えて憂鬱になってしまいますよね。そんな中で週が明けてしまっては、仕事に集中できません。
「昔は趣味があったけど、最近は何もできていないな」
と少しでも感じているのであれば、仕事を休んで趣味に没頭してみましょう。
ここでのポイントは何も考えず趣味に打ち込む、ということです。そうすることで大きなストレス解消になります。
趣味に没頭することが難しければ、ヒーリングミュージック(海の音や焚き火の音)を聞いてゆったりとリラックスできる時間を少なからず持つようにするだけでも効果があります。
運動をする
現代人のストレスは運動不足から来ています。
仕事や人間関係などで、脳はフル回転で働いているのに比べ、体を動かすことは少なくなってきています。1日の終わりには、脳は疲れているのに身体は疲れていないというアンバランスな状態になってしまいます。
運動には身体をあたため、気分を晴らしてくれる効果があります。
それによってよく眠れるようになり睡眠もしっかりと取ることができるようになります。
運動は筋肉の動きや呼吸、リズムを意識して行わなければ、運動効果や快感を感じにくいです。「ながら」で運動をするのではなく、確実に時間を確保して散歩やジョギングなどのリズム運動を日常に取り入れてあげると、効果を実感しやすいです。
転職も視野に入れる
「色々なストレス解消法を試したけど、あまり効果がない。もう限界、、、」
そう感じた場合は、現在の職場が合っていないのかもしれません。
どれほど努力しても上手くいかない時は、自分ではなく保育園側になんらかの問題がある可能性が高いです。
環境が変われば、いきいきと働くことができるかもしれません。
思い切って転職を考えてみましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?
保育士にとって保護者のクレーム対応は絶対に避けては通れない道です。
どんなにベテランの保育士でも、新人の保育士でもクレーム対応には苦労をしています。
ですが、正しい心構えと正しい対処を覚えれば、クレーム対応は保護者との良好な関係を築くチャンスに生まれ変わります。
この記事をきっかけに、多くの保育士さんにとってクレーム対応が「大変なもの」から、「大変だけど必要なもの」に変われば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。